Danger Day.2 「Rainbow Planet:渕上 舞」
「誰もがそれぞれ 正義の中で
正義を見失う 完璧な世界はないのに」
by 渕上舞
誰が間違っている、とかそういう問題じゃないことでも、自分と考えが違うと相手が悪に見えてしまうときありますよね。
こんにちは「もでーん」と申します。
デンジャーな情報二つ目は
渕上舞(声優) 1st single
Rainbow Planet
です。
前回の記事を良いと言ってくださった方がいらっしゃったので、調子に乗ってまた渕上さんです。
概略
「Rainbow Planet」は僕が「渕上舞」というアーティストに首ったけになる決め手となった作品です。
2018年1月24日には1st アルバム「Fly High Myway!」が発売されており、それに続く形で8月8日にリリースされた本作はTVアニメ「プラネット・ウィズ」のEDに起用されました。
タイアップなので、まずは「プラネット・ウィズ」について軽く触れておきましょう。
あらすじ程度であり、ネタバレは殆どないと思いますが、もし気になる方は飛ばして読んでください。
プラネット・ウィズは水上悟志氏が原作の、オリジナルアニメです。
過去の記憶を失っている主人公の黒井宗矢は、黒井銀子という謎のメイド少女と、猫の姿をした謎の生物先生と暮らしています。
そこにある日「ネビュラ・ウェポン」という謎の怪物(とにかくデカい)が現れ街を襲い、謎のヒーローたちがそれを阻止するのですが・・・。何故か銀子と先生は「君には特殊な能力がある。それを使って変身し、ヒーローを倒せ」と促してきます。記憶のない宗矢は事情が呑み込めないものの、その指示に従ってヒーローを撃破しに向かいます。しかし、そこにはそれぞれの「正義」に準じた複雑な背景があり、宗谷はそれに悩み、苦しみ、そして成長していく。
という物語となっております。
この物語の主題は「許すことの大切さ。」だと僕は思ってます。僕たちは自分と意見の違う人、特に反対の意見を持つ人には、嫌悪感を抱き拒絶しがちです。しかし、僕たちは生きている以上、時に相手を受け入れ、許し、慈しむことが必要になってきます。(どうしたって自分と違う考えの人はいますから。)
プラネット・ウィズはそこに焦点をあて、どう向き合っていくかということの重要性を問いかけている作品となっています。
個人的には、ここの部分はRainbow Planetを読み解いていくのに重要な部分だと思っています。
考察:導入
ではまず、名曲を聴いてみてください。
僕がこれを聴いて最初に感じたのは
「なんでこれを作った、歌ったのは俺じゃないんだ!」
という嫉妬。
これを「自分の曲です!」って堂々と言えるってずるくないですか?
「Rainbow Planetを先に作られて、先に発表されちゃったなぁ」というのが本音。
だが僕はそれを「許す」。それがこの曲のテーマだから…!
話が逸れました。だが渕上舞、覚えておけよ!(最初に戻る)
考察:サウンド面
注:いつも通り僕の主観です
長いので、さっと読みたい方は「考察:歌詞」から読むことをお勧めします。(ボーカルについては歌詞の項目で扱ってます。)
まずは全体的なイメージから
全体の曲調としては前回の記事「Crossing Road」に近いものになりますね。シンフォニックで激しい、ドラマチックな出来上がりとなっています。
これも聴いたとき、「Crossing Road」ほどではないにしろ、音の重心が低いなぁと思いました。因みに波形としてはこんな感じです
サビの波形です。
見づらくて申し訳ないですが、50Hz(下辺のメモリ)の付近が+6(左辺のメモリ)まで上がっています。
波形の見方としては右に行くほど高音域を示しており、上に行けば行くほどその音域の音量が大きい、というものになっています。
ではここで比較対象として、同じ疾走感漂うロック曲「予測不能Days」のサビの波形を見てみましょう。
大体似たような形ですが、波形の山で盛り上がっている部分の位置がちょっと違うのが分かるでしょうか?こちらは下辺のメモリでいうと100Hzの部分が一番盛ってあります。
ここから何が分かるのかというと、低音部が盛り上がっているのは同じとしても、予測不能Daysが100Hz、Rainbow Planetが50Hzと、Rainbow Planetの方が低い音が強いことが分かると思います。
僕は予測不能Daysは軽やかなので「昼」、Rainbow Planetはちょっとズッシリしているので「夜」のイメージがあるのですが、そういった印象の違いはこういう部分に由来しています。(もちろん楽器編成やアレンジによっても変わるので、あくまで一例です。)
参考までに前回の記事の「Crossing Road」は…
Rainbow Planetの50Hzより更に低い部分もガッツリ盛り上がってますね。ただ、50Hz以下は人間にとって聴き取りにくい音域で、低音感というよりも音の奥行を演出するために使うことも多いようなので、真意は製作者サイドに聞いてみないとわかりません。因みに、高音域(右の水色丸部分)も他2曲に比べて凹んでます。
高音域は、楽曲の煌びやかさを演出するのに必要ですが、敢えて減らすことによって、全体のトーンを落とすことも出来ます。Crossing Roadの重厚感に納得ですね。
曲の全体像で感じたのは以上です。
次はもうちょっと細かいところを掘り下げてみたいと思います。
丁度いいので、今回は曲の全体像を決定づける音色について語ってみようと思います。
今回取り上げるのはドラムの音です。曲の全体像と繋がってくる部分ですが、華奢で軽やかな渕上さんのビジュアルに反して、ドラムの音が重く詰まったような、圧縮されたような音が一曲を通して鳴っています。
特にスネアと呼ばれる、4拍子なら「ツ・タン・ツ・タン」の「タン」の部分が特に音の高い部分を削っています。(上記の波形はすべてのパートが混ざっているものなので、このような各パートのときは波形から読み取ることが出来ません。)
因みにスネアの音はこんな感じです。
これが本来のスネアの音になります。
なんかちょっと、音が違くないですか?ちょっと甲高いような。
それを踏まえてRainbow Planetを聴いてみてください。
そしてもし、渕上さんの「君と雨に歌うソネット」「beatiful sunday」の2曲を持っている方がいたら今聴いてみてください。(持ってない方もiTunesとかで視聴出来るかも)
「beatiful sunday」のスネアは同じ「タン」でもちょっと空間に抜けていくような音がしませんか?
「君と雨に歌うソネット」のスネアは逆に低音が少なめなのか「タン」というより「パス」っとちょっと軽い感じがしませんか?
このようにドラム一つの音色でも曲によってこんなに変わってきます。上記2曲や本来の音を聴いて、Rainbow Planetと比べると、Rainbow Planetの音が特殊なものであることが分かるかと思います。
上記2つがない場合は水樹奈々さんの「GREAT ACTIVITY」や「ULTIMATE DIAMOND」とかを聴いてみてください。(僕がこの2つしか持ってないので…)
水樹奈々さんの楽曲は「タン!」と抜けの良いスネアが多い印象です。(そもそも渕上さんの曲、スネアがない曲多い…)
では、何故Rainbow Planetはこのような音をしているのでしょうか。
これはもしかしたら渕上さんの声質と関係しているのかも知れません。ボーカルとヴァイオリンをメインに据えているこの曲では、打撃音でそれらをかき消すことはすべきでないと判断し、スネアの高音を削ることによって渕上さんの邪魔をしないようにしているのではないでしょうか。
前回も書きましたが、渕上さんのボーカルは優しい響き故に「溶け」ます。折角気持ちのいい声を、他の楽器と被せてしまっては魅力は半減ですよね。なので、渕上さんの声を邪魔するような部分は予めカットして、渕上さんの声が入る余地を残しておくのです。
以下各パート配置の大まかなイメージ。
逆に水樹奈々さんの声は、かなり通りますよね。喉というより身体全体が響いているような、一歩間違えれば兵器利用出来そうなくらいの強力な響き。彼女の場合は自然とボーカルが前に出てくるので、楽器の音を削る必要がありません。なので、ドラムも逆に埋もれないように高音域が入っているのでしょう。
ドラムに限らず、そういうところを気にして曲を聴き比べてみると、新たな発見があって面白いかも知れません。
ここで一点注意です。
今流れの中で渕上さんと水樹奈々さんの声を比較しましたが、これはどっちが優れているのか、という話ではありません。
各楽器には特性があります。活躍の仕方が違います。
渕上さんはフルート、水樹奈々さんはトランペット。そういった違いです。
すいません、長くなりました。
はい次ぃ!(CV:イモトア〇コ)
考察:アレンジ
続いてはアレンジについてです。
この曲は色んな場面において、ボーカルとヴァイオリンをハッキリと聞き取ることが出来ます。
ボーカルとヴァイオリンがメインなのだから当たり前と言えば当たり前なんですが、反対に、激しいイメージのある曲であるにもかかわらず、メインとなりそうなエレキギターは意外と目立ってないんですよね。コードの流れを感じさせつつ、ヴァイオリンのすぐ下の空間を補助するくらいの配置となっています。
「この曲を聴くならまずはボーカルとヴァイオリンを聴け」というアレンジャーの声が聞こえてくるかのようで、これでもかというくらいその2パートを印象付けてくるような編曲がなされています。
意識して聴いてみるとうっすら分かると思うのですが、とにかくボーカルとヴァイオリンはリズムとハーモニーが細かくリンクしています。
分かりやすいのはサビ。「誰もがそれぞれ正義の中で正義を見失う」という部分。「誰もが~中で」はボーカルはとてもリズムが細かく、音程も上下して迫力があります。そこの部分のヴァイオリンを意識すると、ヴァイオリンも何やら後ろで激しく動き回っていることが分かるかと思います。
しかし「正義を見失う」に差し掛かった瞬間、ヴァイオリンは独自の動きをやめ、ボーカルのメロディをなぞるようにして音を奏でます。
「正義を見失う」という強烈なワードに、同じメロディをなぞって合流してくるパート。
これめちゃくちゃ熱くないですか?
また、他のところでは、渕上さんが声を伸ばすところでヴァイオリンがよく動き、渕上さんが忙しいところではヴァイオリンが大人しいアレンジになっているところもあります。
そして、一曲を通して、ビュンビュンと箒星が流れるような動きのあるヴァイオリンを、下からギターがガシっと支えてバランスを取っています。ここでギターまで暴れてしまったら、しっちゃかめっちゃかで渕上さんの入る余地はなくなってしまいそうですね。
ベースも場面によっては結構動いてはいるものの、徹底して低い部分を弾いていて、基本的にボーカルやヴァイオリンと被るところまでは出しゃばってきません。
唯一高い部分と言えば「今日が最後の一日なら どんな風に過ごせば」の裏で鳴っているくらいです。
話は逸れますが、最近はベースも高い部分の音を使って動くのが増えてきており、特にUNISON SQUARE GARDENは3ピース故にベースの役割が大きいからか、それが顕著です。(かっこいいので是非聴いてみてください)
今回はあくまで「渕上さんのボーカルを引き立たせるためのアンサンブル」を大切にしているということですね。
はい次ぃ!
考察:歌詞、ボーカル
やっとたどり着きました。歌詞です。
冒頭にも書きましたが「誰もがそれぞれ正義の中で正義を見失う」にこの曲のメッセージが凝縮されていると思います。
プラネット・ウィズも、それぞれがそれぞれの正義を抱いて激突します。悪役として出てくる敵の言い分も正直分かります。主人公サイドとヒーローサイドと怪獣サイド。どれも主張は基本的に平行線ですが、物語が進むにつれて様相が変わってきます。
僕がこの作品を見て感じたことは「自分と他人、最後まで理解し合えずぶつかることはある。でもいつの間にか人は許し許され生きているんだ。」ということです。
「青空の反対側で星空が煌めくみたいに どっちも美しい空 正しさの裏側も間違いじゃないよね」
Aメロからしてセンスが爆発してます。
何がって、メロディに対して、歌詞の響きが上手くハマっているところです。
例えば、ZARDの「負けないで」の「負けないでもう少し~」の部分。「負けないで」が「愛してる」だったらどうですか?「文字数合ってるけど、その言葉入れちゃう?」ってなりますよね。違和感が凄い。でも「負けないで」にしたことにより、すんなり入ってきますよね。
Rainbow Planetってそこが凄いんです。最初だけに留まらず、一曲通してもうそれしか考えられないっていうくらい歌詞がガッチリとメロディにハマってます。
そして何よりすごいのが、この一節にこの曲のテーマが収まっていることです。
よく、相手に伝えるときは「結論を簡潔に述べてから、説明に入るのが望ましい。」と言われていますが、それをメロディという制限がある中で的確にやっています。
「これから、正義の反対は他の正義、ということについて歌いますよ」
って宣言してます。ここでリスナーは「ああ、これは絶対的な価値観はないってことについて歌っている曲なんだ。」とすんなり理解出来ますね。
そして、その前提からの
「正義の中で正義を見失う」
です。
すげぇこと言うよね…
「この世の価値観は簡単には割り切れない、それはみんな分かってるはずなのに…。お前らみんな気付かない内にそれを人に押し付けて強制しようとしてるじゃねぇか!」
っていう問題提起。身につまされます。恐らく、過去を振り返れば誰もが身に覚えがあるはずです。しかし、ここで終わらないのがRainbow Planet。ここから
「許し合えるから 愛し合えるの。」
という一節に繋げます。
どんなに親しい人でも完全に合うことはない。(B'zのLOVE PHANTOMでも「二人で一つになれちゃうことを 気持ちいいと思ううちに 少しのズレも許せないセコイ人間になってたよ」と歌ってます。)
考えてみれば、家族、恋人、友人と、時には反発しながらも関係を築いていきますよね。
糾弾し合って、それを非難して終わりではなくて「許し合おうよ」とまで訴えることが出来るこの曲。そこに僕は魅力を感じます。
そして、渕上さんのボーカルワークもリスナーを唸らせますよね。
前回も言及した「渕上節」ですが、「正義の中で」や「愛し合えるの」の部分等で声を張り上げるとき、他の曲より少し苦しそうに聴こえます。しかし、これこそが「この曲のテーマへの苦しみ」を表しているようで胸に染みます。
またその後の「正義を見失う~」や「Rainbow Planet~」のところでは、短い2拍の中でガッツリとビブラートをかけているところも、芸が細かいというか、耳が楽しいですし、実声とファルセットを瞬時に切り替えてバリエーションを持たせる技術力も、流石としか言えません。
「声優は声を生業にしているだけあって歌が上手い」と言われているのを何度か見かけたことがありますが、渕上さんはその中でも、曲にダイナミズムをもたらせることが出来るという点で「ボーカリストとしても歌が上手い」と僕は思ってます(微妙なニュアンスの違いかも知れないですけど)
センス抜群のメロディ・歌詞とクオリティ抜群の渕上さんのボーカルが綿密に絡み合い、この名曲を生み出したわけです。
まとめ
正直、気持ちが先走り過ぎて内容がとっちらかっているのでまとめようもないんですが、僕がどれだけこの曲を好きか、なんとなく分かっていただけたらと思います。
言いたいことはただ一つ
「渕上舞はいいぞ」
ありがとうございました。